BLPの教育効果を大公開!オンライン授業でリーダーシップを育むことはできるのか?


先日、「立教経営BLPカンファレンス2020」を開催しました。

今年のテーマは「BLPのオンライン授業実践とその教育効果:オンラインでリーダーシップをいかに育むか」。当日は、大学教育関係者だけでなく、企業人事関係者、高校関係者、在校生やその保護者、卒業生など様々な方にご参加いただきました。ウェビナー開催でしたが、みなさん積極的にコメントやツイートをお寄せいただいたおかげで、とても活気のある場になりました。(この場を借りて、ご参加いただいたみなさまに深くお礼申し上げます!)

当日は、まずはじめに主査の舘野泰一先生より、BLPのオンライン授業実践について報告されました。オンライン開催が決定した直後の心境の揺れ動きやそこからミッションを立てて組織をリードしていったご経験を「”対処”ではなく、”創造”のストーリー」としてご報告されました。舘野先生らしい熱のこもった素晴らしいプレゼンテーションの後、私からBL0(大学1年生向けPBL科目)のデータを基にした「オンライン授業を通じた教育効果」についてご報告いたしました。

ここでは、私が報告させていただいた内容についていくつかトピックスをご紹介させていただきます。詳しい内容については、ぜひスライドをご覧ください。


田中聡(2020)「BLPオンライン授業による教育効果」立教経営BLPカンファレンス講演資料
※出典を明記いただいた上で、引用・転載していただければ幸いです。

オンライン授業でもリーダーシップを育むことはできる

まず、対面授業で行われた昨年の結果と比べて(授業終了時点でのスコア比較)、リーダーシップ行動(※)のうち「目標設定・目標共有」と「関係構築・同僚支援」に関する項目が上回る結果でした。つまり、チームの目標を共有し、他者を支援するというリーダーシップ行動は、オンライン環境でも十分に発揮できることが示されました。

一方、「率先垂範」については昨年同様という結果となりました。「気軽にコミュニケーションを取りづらい」「授業外で教員に質問をしづらい」といったオンライン環境ならではの難しさが影響していることが考えられます。このあたりの要因については今後より精緻な分析を行い、研究チームで論文化していく予定です。


(※)「率先垂範」「目標設定・共有」「関係構築・同僚支援」尺度は、リーダーシップ行動尺度(木村他 2019)を参考に、一部授業用に改変して用いています。リーダーシップ行動尺度の内容や具体的な質問項目について詳しく知りたい方は、こちらの論文をご覧ください。

オンラインは「コンテンツ(授業内容)」に集中しやすい学習環境

オンライン授業の場合、自宅から参加できるため、オンキャンパスで行う授業に比べて出席率は高まります(BLPの場合、全回出席者の割合は88.0→95.0%へアップ)。しかし、ここで想起されるのは「気軽に参加できる分、授業への集中力は低下するのでは…?」という懸念ではないでしょうか。この点に関しては、私たちもある程度スコアが下がることは覚悟していたものの、授業への積極的な関わりは概ね昨年と同水準という結果でした。

また、昨年と比べて大幅にアップしたのが「授業中にメモやノートを積極的にとる」という項目です。オンライン授業ではコミュニティ(受講者同士のつながり)を作るのが難しいと言われますが、その一方、コンテンツ(授業内容)に対して集中しやすい学習環境だということも言えそうです実際「授業を通じて学問的興味がかき立てられた」と回答する割合も昨年に比べてアップしています。


「教室外(授業時間外)」の学びをいかに支援できるか

今回の学習成果には、教室内(授業時間内)だけでなく、「教室外(授業時間内)での学び」が大きく影響していることがわかりました。そのキーワードは、「1.授業外学習」「2.グループワーク」「3.メンター支援」です。

例えば、「授業外学習」について、例年より授業課題のボリュームは控えめに設定していたにもかかわらず(受講者の課題負担を軽減するため)、授業時間以外の学習時間は増加していることが確認されました。つまり、この学習時間の増加は課題によるものではなく、受講生自ら主体的な学習を行っているということです。特に昨年と比較して、授業に関連する「発展的な学習」を行う割合が高いことが分かっています。


オンライン授業に伴う教室外での学習行動の変化は、個人で行う授業外学習だけではありません。チーム単位(約4〜5名)で行うグループワークについても変化がみられています。昨年と比較すると、オンライン授業に伴うグループワークの変化は主に以下3点です。

[グループワーク面でみられた3つの変化]
1.グループワーク前に時間をかけて事前準備をする
   ↓

2.グループワークを高頻度で実施する
   ↓
3.1、2の結果、生産性実感が高まる

※詳細はスライド資料をご参照ください。
田中聡(2020)「BLPオンライン授業による教育効果」立教経営BLPカンファレンス講演資料


教室外での主体的な学びをサポートする「メンター」

こうした「教室外での主体的な学び」は、意図せず実現された、オンラインだから出来た、というわけでは決してありません。BL0では「メンター」と言われる総勢90名の学生スタッフ(2年生)が中心となって、約380名の受講生の教室外での学びをサポートしています。メンターの主な役割は、担当する受講生をコーチングし、他者とのコミュニケーションを円滑に行えるようサポートすることです。しかし、今年はそれ以上の役割を果たしてくれました。授業内の学習を支援するだけでなく、大学生活全般に関する悩み・相談に寄り添い、不安軽減に努めてくれました。

その結果、メンターに対する受講生の評価は軒並み大幅アップ(過去最高値)!なかでも象徴的なデータが、なんと約3人に2人の受講生が「来年メンターをやってみたい」と回答している点です。この割合だけをみてもピンと来づらいですが、実数に置き換えると、なんと240名以上(!)の受講生が来年度のメンターを志望しているという結果になります。まさにメンターの発揮したリーダーシップが受講生の心を動かした証左とも言えますね。



教室内だけでなく、教室外も含めた「受講生の学習活動全般」を支援することが重要

全国ほぼ全ての大学がこの春一斉にオンライン授業をスタートしました。オンライン授業に用いる会議ツールの品質や機材のセットアップ方法、アイスブレイクやインタラクティブな授業設計をどうするかなど、「オンライン・ティーチング」に関するナレッジがSNSを通じて瞬く間に関係者に広まりました。教育業界全体で一気にレベルアップできたことはとても素晴らしいことだと思います。

しかし、BLPという授業を「学びのコミュニティ」として捉えると、どうしても「教室内でのオンラインティーチングの工夫」だけでは限界があります。教員と学生の1対1のつながりを無数に作るのではなく(オンライン授業ではついそうなりがち…)、学生同士がつながり、ともに学び合える場や機会を授業内・外でどれだけ用意できるか。ここは主査 舘野先生が日頃から強調されている点であり、授業運営陣が強く意識してきたことです。今回は特にメンターがハブとなり、授業外における受講生同士のつながりを意識的につくることができていました。

今回、わたしたちにとっての最大の学びは、教室内だけでなく(もちろんそれも重要ですが)、教室外を含めた受講生の学習活動全般を支援することが重要だというということです。(様々な授業環境・授業運営上の制約があるため、一概に、これが正しい、全ての授業がそうあるべきだということではありません。少なくとも「私たちにとっての学び」という意味で受け止めていただけると幸いです)


 
さて、ここまで報告内容のトピックスをご紹介してきました。

今回、どのような結果になるのか実は内心ドキドキしながら分析作業を進めていましたが、結果はわたしたちの期待を上回るものでした。ただ、私たちBLPの取り組みは常に現在進行形で、引き続きフルオンラインで行われる秋学期の授業(BL1など)でも試行錯誤は続いていきます。決して「成功事例」と断言できるようなものではなく、これから取り組むべきテーマはたくさんあります。

たとえば・・・メンターの支援がなくなる秋学期以降(メンター制度があるのはBL0のみ)、受講生がどのようにしてオンライン環境下で主体的な学びを実現していくか(率先垂範行動を行っていくか)。また、偶然の出会いや何気ない会話から生まれるケミストリーをオンライン環境下でいかに再現できるか、などです。


オンラインによって「データに基づく教育の重要性」が高まる

最後に、今回の実践を通じて改めて実感したのは「データに基づく教育の重要性」です。オンライン授業が続くなか、受講生の精神的な負担や孤独感を懸念する声が強まっていますが、そうした負担を強いられているのは決して学生だけではありません。授業をする教員側も、受講生のリアクションが掴みづらいことで、対面授業以上に心理的な不安・ストレスを抱えやすい状況にあります。そんな中、受講生の授業に対するエンゲージメントや学習状況が見える化されることは、教員側にとってとても有益です。そして、その見える化にデータは大いに役立ちます。

今回は触れることができませんでしたが、私がコースリーダーを担当するBL2(2年生向けBLP)の授業では、受講生アンケート結果を授業内でチームに即時フィードバックすることでチームビルディングに活用したり、データをもとに授業運営陣の組織開発を行ったりと、データを活用した様々な工夫を行っています。これまで見えていた様々なことが見えなくなるオンライン環境下では、「データ(量・質)を介した受講生とのコミュニケーション」がいかに貴重な情報資源となるかを実感しています。

今回このような結果をお示しすることができたのは、日頃からの継続的なデータ収集・分析体制とそれに快く協力・支援してくださる経営学部・BLPチームの皆様のおかげです。(いつもありがとうございます!)

なお、今回ご紹介した一連の調査・分析の主体である「データアナリティクスラボ」の活動の一部は、公益財団法人電通育英会からのご支援を受けて運営されています(「大学初年次教育のリーダーシップ教育の効果性に関する研究プロジェクト」(研究代表者 中原淳))。「データアナリティクスラボ」とは何か。どのような活動を行っているのか。などについてはまた改めてご紹介したいと思います。


▼「BLPオンライン授業による教育効果」報告資料(一部抜粋)
田中聡(2020)「BLPオンライン授業による教育効果」立教経営BLPカンファレンス講演資料
※出典を明記いただいた上で、引用・転載していただければ幸いです。